アドバンス・ケア・プランニングとは

アドバンス・ケア・プランニング(以下:ACP)とは、万が一のときに備え、患者様の大切にしている事や望み、どのような医療やケアを望んでいるかについて、自分自身で考えたり信頼する人たちと話し合ったりする事を指します(人生会議とも呼びます)。

ACPの一番の目標は、重篤な疾患ならびに慢性疾患を持つ患者様が、自分で意思判断を示せなくなった時に、事前に共有していた価値感や医療に関する目標・選好を、ケアに反映させる事です。

ある程度前もって、患者様と価値や人生の目標・将来の医療に関する望みを理解し、適切なタイミングで定期的に共有し合う自発的なプロセスでもあります。

このプロセスには患者様本人が意思決定できなくなった時に備えて、信用できる人もしくは人々を前もって選定しておく事を含んでいます。

ACPの意義

自分自身へ問う会議

ACPの話し合いは、将来のあなたのために周りの人にして欲しい治療やケアが中心になりますが、まずは自分自身の将来をもう一度見つめてもらう機会になると言えます。

おぼろげながら思っていた事に今一度向き合い、改めてその時に「自分がどうしたいか」「家族や友人・病院にどうして欲しいか」をじっくり考える、まさに自分自身に問う会議と言えます。

家族・友人・病院関係者にとって

周りの皆さんも、将来難しい決断をしなければならない場面に遭遇した際、やはり患者様本人の意向を聞きたいはずです。

その時に患者様から直接意向を聞ければそれで問題はありませんが、患者様が自分の気持ちを話せない状態になったらどうでしょう。

一般的な終末期においては、約70%の患者様が自分での意思決定が不可能であるというデータも出ています。

「あの人ならこう考えるだろう、こうかも知れない」という終末期における重要な決断を、ご家族や周りの人が「あの人ならこう考えるだろう、こうかもしれない」と本人の人格や考えを想像しながら勝手に意思決定するのは行うのは非常に大変な事で、その負担やストレスは計り知れません。

それが後々、後悔の念としてご家族の心に残ったりする事にもなります。

前もってこのACPで話し合いをしておけば、そういった心の負担を軽くする事ができるのです。

ACPの内容について

・信頼者のみで実施
ACPは患者様自身と医療従事者、そして患者様が望めば信頼できる家族や友人と共に行われます。
・患者様の意向
この話し合いは、ACPは患者様が自分の病状や予後、これからの治療についてどれくらい知っておきたいかの「度合い」に応じて行われます。
・繰り返し実施が必要
ACPは、患者様の健康状態や生活状況が変わるごとに、何度も繰り返し行われるべきものです。
・患者様の意向と医療側の意向
一番は患者様が最も大切にしていることに基づいて意思決定ができるようにするべきですが、同時に医学ケアの面での目標にも焦点を当てる必要があります。
・代理人の選定
ACPは患者様の健康状態が変化するに従い、特定の治療やケアについてどうしていくかに焦点が移っていきます。
・共通理解が前提
治療の決定は医療従事者とともに、法令に従い、患者様の変化していく健康状態や予後について共通理解を得ながら行われるべきであります。
・記録保存、共有
話し合いの内容は、信用できる人(人々)ならびに医療従事者とともに話し合った後で記録に残し共有されるべきです。
・情報更新
記録された内容は、必要となった時にすぐに参照できるように保存され、必要に応じて更新されるべきです。

ACPのタイミング

以下の2つのケースにおいては、なかなかACPが実施されない・継続できない問題が生じます。

健康成人におけるACP

本人が健全な状態なので、その意向は曖昧でその度変わり、遠い未来に対する仮の選択という位置づけになりやすいです。

そもそもほとんどの患者様は、このACPを話し合う事自体を避ける傾向にあります。

早めに話し合っても不確実な判断が多く、それによってどのような結果になるのかの想像があまりついていない事が多いです。

他にも以下のような傾向の患者様もいます。

・どんな選択をしたか覚えていない

・1~2年経つと違う選択をする

患者様のうち4割が、5年のうちに心肺蘇生に関する意向を変える統計データもあります。

生命の危機に直面している方のACP

生命の危機に直面している患者様に対し、ACPが実施される事はありません。

救急や死の前日などは、短時間で医療ケアの方向性などの緊急の話し合いが行われます。

この話し合いは、対象となる医療行為をするかしないかに限られ、その背景にある価値観や目標などは探索されません。

話し合いに要する時間は「平均1分」という調査もあります。

ACPの条件や注意

■予後が1年以内と想定される患者を優先的にACPの対象とする事

全ての重い病をもつ患者様がACPの対象ですが、特に予後1年以内と想定される方は優先的に対象とする必要があります。

それは本人が何らかの形で意向を表明できなくなった時点で、ACPの対象にはならないためです。

このような事態を防ぐため、特に認知症や悪性脳腫瘍など認知機能が比較的早期に損なわれる疾患の場合は、ACPをなるべく早い段階で開始することが推奨されています。

■患者様と医療者双方の不安に対処する

病気が進行し、身体の自由がきかなくなる時のことを想像させるのは、患者様や家族の不安を伴います。

また医療者にとっても、話し合い時にそのような話題を持ち出す事自体が不安をあおる事になりかねません。

ポイントは「最善を望みつつも、最悪の事態にも備えておきましょう。」というスタンスです。

「例え事態が悪くなっても、我々はできる限りあなたのお力になります」という理念で継続的に関わり、最善を尽くす姿勢があることを伝えます。

今後も継続して支援する体制を保証することで、不安の軽減につなげる必要があります。

■医師・看護師が連携したチーム体制を構築する

ACPでは、患者様本人を中心に主に患者様の治療を担当する医師と看護師が密に連携するチームアプローチが大切です。

患者様のニーズに応じてその他の専門職との連携体制も構築し、適宜情報を共有しながらACP支援を協働することができれば理想的です。

■患者様の同意を得て、患者様が望む場合のみ進める

ACPは重要な取り組みなのですが、決して患者様や家族に強要してはいけないものです。

「今は病気を治すことに専念したいので、もう少し後にしてください。」という様な反応を示す患者様も当然いらっしゃいます。

その様な場合、仮にACPの目的だけでも伝えられていれば、後々の状況が変わった時にACPの話し合いを再開する事が可能になる場合もあります。

或いは、ACPはまだ早いとしても意思決定の代理人を確認する事なら可能な場合が多いですし、その心づもりがある患者様は多いです。

■患者様から強い感情が表出された場合は中断する事

ACPは病状が悪化した場合や重篤な状態を想像して話し合われるものです。

当然患者様は言葉に詰まったり涙を流したりと、強い感情を呈する場面が出てきます。

そのような場合に医療者はACPの話し合いを中断して、患者様の思いや考えを傾聴して理解に努めます。

患者様の気持ちに寄り添うこころのケアへと転換することが重要です。

ACPのメリット・デメリット効果と課題

ACPのメリット効果

・患者様の大切にしている事や、将来の医療やケアに関する選好が明らかになり、患者様中心の医療ケア提供が可能になる

・患者様の自己コントロール感が高まる

・家族の満足度が向上し、不安や抑うつが減少することで、患者様と家族間の関係性がより良好になり改善される改善され、より良好になる

・家族の満足度が向上し、不安や抑うつが減少する

ACPの問題点課題

・患者様や家族に病気の進行や最終段階のイメージを想起させ、精神的苦痛を与える可能性がある

・家族調和を重んじ個人の意思表示を避ける患者様に、ACPを支援する事への文化的な障壁がまだある

・患者様に精神的苦痛を与えることを危惧した、経験不足から、ACP支援を躊躇する傾向もある

・看護師と医師間の協働体制の不備、時間や人員確保の難しさをはじめとする医療資源不足

・患者様の反応(強い感情)が表明された場合、各関係者のムードも影響しなかなか定期的な開催がされない

もしもの時に備えて

自分自身や身の回りの人が大切にしていることや、望むことを的確に認識できている人はわずかです。もしもの時に後悔しない選択をするためにも自分自身で前もって考え、信頼できる人たちと話し合い、共有してみてはいかがでしょうか。