意思伝達装置について

重度障害者意思伝達装置(以下、意思伝達装置)は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの疾患によって話すことができず、身体を自由に動かせない重度障害者を支援するためのコミュニケーション支援装置です。パソコンやタブレットに特別なソフトウェアをインストールし、わずかな体の動きから機器の操作を行うものや、微弱な電気信号からYES/NOの意思表示を行うものなどがあります。身体に重度の障害がある場合でも、適切な装置の選択により、意思の表出が可能になります。

意思伝達装置を使用するためには

意思伝達装置を必要とする方には、市町村から補装具として支給されます。支給には条件があり、認定を受けることで意思伝達装置が提供されます。まずは、一市町村の障害者福祉担当に相談することが重要です。ケースワーカーは障害に合わせたサービスや意思伝達装置の提案を行います。この情報をもとに身体障害者更生相談所(身更相)に支給の判定依頼が行われます。身更相は申請書類や直接の調査を通じて支給の可否を判断し、その結果を市町村に通知します。認定された場合、市町村から意思伝達装置が支給されます。ただし、申請者の所得によって一部負担金が発生することがある場合があります。

意思伝達装置の種類と操作方法

意思伝達装置は大まかに二つの方式に分かれます。一つは画面に順番に表示される文字等をスイッチ操作等で入力する方式(文字等走査入力方式)で、もう一つは脳波や脳の血液量等の様々な信号を利用してYES/NOを判断する方式(生体現象方式)です。利用者の身体状況に応じて、適切な方式を選ぶことが重要です。

文字等走査入力方式

文字等走査入力方式は、画面に表示される文字や単語を順番に選択する方法です。PCやタブレットなどを使用する意思伝達装置に用いられます。

代表的な製品には、専用の筐体を利用する「レッツチャット」や「ファインチャット」。PCを使用する「伝の心」。タブレットを使用する「トーキングエイド プラス」などがあります。

この方式では、画面に文字や単語が表示され、それらが一定間隔ごとに点灯します。利用者は入力したい文字や単語が点灯したタイミングでスイッチを操作することで文字や単語が入力されます。

例えば、「こんにちは」とひらがなで入力する場合について紹介します。最初に「こ」を入力していきます。「あ」「か」「さ」「た」「な」・・・と行の中から「か」行が点灯したときにスイッチを操作して選択します。次に「か」「き」「く」「け」「こ」の段から「こ」が点灯したときにスイッチを操作して選択します。

これを繰り返していき、入力したい文字が点灯したタイミングでスイッチを操作します。文字が入力されると、また「あ」が点灯するので、このプロセスを繰り返して文章を入力します。

視線入力にも対応した機器もあります。例えばひらがなの入力では、50音表が表示されている画面の入力したい文字を見続けたり、まばたきをしたり、入力したい文字を見ながらスイッチを操作することで、文字の入力ができます。

文字等走査入力方式で使用されるスイッチ

文字等走査入力方式の意思伝達装置は多くの入力装置(スイッチ)に対応しています。入力装置は接点式、帯電式、筋電式、光電式、呼気式、圧電素子式、空気圧式、視線検出式などがあり、身体の動きや状況に合わせて選択します。

i. 接点式

押しボタン式のスイッチのこと

様々な種類や形状があり、最適な大きさや形状、押し心地を選択することができます。

設置の仕方によって、ベッド上でも車いす上でも使用することができます。

ii. 帯電式

タッチ式のセンサーで触れることで体の静電気に反応して使用することができます。

筋力が低下していて、スイッチを押すことができなくても、スイッチに触れることができれば使用ができます。

iii.筋電式

筋肉が収縮するときに体を流れる電気信号を検知し、入力を行います。

細かな動きができなくても、肩に力を入れるなどの動作で使用が可能です。

皮膚に端子を張り付けるためわずらわしさを感じることもあります。

iv. 光電式

手指などに光を当てて、反射光の強さから、動きを感知します。

身体に張り付けずに使用することも出来る為、異物感等のわずらわしさがありません。

v.呼気式(吸気式)

口の前にセンサーを設置するか、口にストローやチューブ等を咥え、息を吐く、息を吸う動作の空圧の変化を検知します。

息を吐くとき、吸うときそれぞれで別の操作を行うこともできます。

ストロー等を使用する場合はストロー等内に唾液や水滴がたまるため、定期的に洗浄が必要になります。

vi. 圧電素子式

身体に貼り付けた端子のたわみを検知します。

わずかな動きでもたわみが生じるため、おでこなどの微小な動きでもとらえることができます。

端子を皮膚に貼り付けるためわずらわしさが生じる場合があります。

vii.空気圧式

エアバックの上に乗せた手や足のわずかな動きを空気圧の変動として探知します。

小さいエアバックを手で保持し、握りこんで使用することもできます。

viii.視線検出式

視線の動きをセンサーで検出し、直接文字などを入力することで文字入力を素早く行うことができます。また、直接体に触れるものはないためわずらわしさもありません。

しかし、設置には目と装置の位置関係が非常に重要であり、使用毎に視点を装置に認識させる必要があり、頭部の位置がずれると再度設定が必要になる手間があります。

生体現象方式

生体現象方式は、手指や眼球、表情筋などの動きが難しい利用者に対して、脳波や脳の血液量の変化を検出して操作する方式です。代表的な製品には「MACTOS」や「新心語り」「Cyin」があります。この方式は生体現象を解析し、YES/NOの意思表示が可能です。体の部位を動かす必要がないため、他の入力方式が難しい場合にも対応できます。ただし、YES/NOの意思表示のみを行う装置のため、介助者や家族が当人の意思をくみ取った質問を行うことが大切です。また、この装置を上記の文字等差走査入力方式の入力装置として使用することも可能です。

「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドラインについて

平成18年度から補装具種目となった重度障害者用意思伝達装置の導入に関して、制度や機器の不明確さなどにより、判定側も適切な判断が難しいという問題がありました。また、利用者の変化する身体状況の再評価やニーズに合致した装置の提案、支給後のフォローアップなどが十分になされていないという問題点もありました。このため、「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドラインが作成され、要件と支援策が提案されました。このガイドラインは、基本的な知識から各製品の機能、症例に応じたスイッチの使い方などを記載しており、関心がある方、介助者の方にとって有益な情報源です。

株式会社MCでの取り組みについて

株式会社MCが運営する有料老人ホームサポートハウスみさとヴィラとサポートハウスみさとノイエに入居する多くの利用者様は、ALSなどの難病を患っています。そのため、意思伝達装置を利用する利用者様が多く入居されています。両施設では、リハビリテーション課やコミュニケーションサポートチームの職員が中心となって、意思伝達装置の使用をサポートしています。彼らが中心となり職員に対し、新たな装置の勉強会を開催したり、個々の利用者に合ったスイッチを考えたりして、様々な機器やスイッチを活用しています。その中で利用者様一人ひとりの病状にあわせて最適なスイッチを手作りする活動も行っております。

また、当社は株式会社オレンジアーチが開発・販売するEEYES(イイアイズ)という意思伝達装置の開発協力も行っており、そのデモ機第一号機が施設で稼働中です。

最新の取り組みとしては「ニューロノード」というウェアラブルデバイスを入力装置として、意思伝達装置に接続している利用者様がいらっしゃいます。「ニューロノード」は体のどこにでも取り付けられるウェアラブルデバイスで、筋電と空間座標の2つを測定することができます。AIの学習により体を動かそうと思って動かした反応(随意運動)のみを検出することができ、勝手に体が動いてしまう不随意運動は検出しません。こういった最新の機器も積極的に活用しております。

サポートハウスみさとヴィラとサポートハウスみさとノイエでは、意思伝達装置の使用をサポートするための環境が整っています。