2025年11月4日

介護の常識が変わる「ユマニチュード」とは?フランス発祥“人間らしさ”を支えるケアの哲学

介護の現場で、「どう接したら良いか分からない」「拒否されてしまう」と悩んだことはありませんか?

ケアが「作業」になった瞬間、ケアを受ける側も、する側もつらくなってしまいます。

そうした課題を解決し、「あなたを大切に思っています」というメッセージを伝えるための具体的な技術と哲学を体系化したものが、フランス発祥のケア技法『ユマニチュード』です。

この記事では、ユマニチュードの基本的な考え方と、なぜ今、日本の医療や介護の現場でこれほど注目されているのかを、専門機関の情報を交えて解説します。

ユマニチュードの誕生と「人間らしさ」の定義

ユマニチュード(Humanitude)とは、「人間らしさを取り戻す」という意味を込めたフランス語の造語です。

日本ユマニチュード学会の公式サイトによると、この技法は1979年にフランスの体育学専門家であるイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏によって考案されました [1]

その目的は、認知症の方や高齢者をはじめ、ケアを必要とするすべての人に対し、「ケアを受ける“その人らしさ”と尊厳を最期まで尊重すること」にあります。

ユマニチュードは単なる介助技術ではなく、「ケアを行う人の心構えや哲学」でもあるのです [2]

なぜ伝わるのか? 心に届ける「4つの柱」

ユマニチュードの最大の特徴は、「あなたを大切にしている」というメッセージを、相手が理解しやすい感覚(視覚・聴覚・触覚)を用いて伝える点にあります。

この技法は、以下の「4つの柱」と呼ばれる基本動作で構成されています [3]

1. 見る(視線を合わせる)

人は、自分の存在を認めてもらえないと不安になります。ユマニチュードでは、相手の正面に立ち、同じ目線の高さで、近い距離から見つめることを重視します。

これは「私はあなたを見ています」「あなたの存在を認めています」という最も強いメッセージとなります。ベッドに寝ている方なら、自分がしゃがんで目線を合わせます。

2. 話す(優しく声をかけ続ける)

ケアの間、穏やかな声で「おはようございます」「これからお背中を拭きますね」と実況中継するように話しかけ続けます。たとえ相手から返事がなくても、声かけを止めません。

これは「私はあなたとここにいます」「何も怖いことはありません」という安心感を伝える聴覚へのアプローチです。

3. 触れる(優しく広い面で)

ケアで身体に触れる際、指先で「つかむ」動作は、相手に恐怖感や拘束感を与えてしまいます。

そうではなく、手のひら全体で、広い面積で、ゆっくりと優しく触れます。背中や腕を支えるように触れることで、「あなたの身体を大切に扱っています」という温もりと敬意を伝えます。

4. 立つ(自立を支える)

人間は本来、二本足で立つ存在です。「危ないから」と寝かせきりにするのではなく、できる限り自分の足で「立つ」時間を確保することを目指します。

たとえ短い時間でも、立つことは人間の尊厳を保ち、身体機能や意識を活性化させる重要な柱です [4]

実際のケアと導入の効果

これら4つの柱を組み合わせて実践することで、ケアを受ける側の「自分は尊重されている」という実感が深まります。

その結果、ケアへの拒否感や攻撃的な反応が減少し、介護者との間に深い信頼関係(絆)が築かれると報告されています [5]

実際にどのように実践されているかを知りたい方は、ユマニチュードの創始者であるイヴ・ジネスト氏の実演動画などが参考になります [6]

現在、ユマニチュードは日本でも2010年代から普及が進み、多くの介護施設や医療機関、さらには在宅介護の現場でも導入されています [7]

まとめ:ケアの本質は「関係性」

ユマニチュードは、単なる介助テクニック集ではありません。

それは、ケアをする側とされる側が、人間としての尊厳を互いに認め合い、心を通わせるための「哲学」であり「優しさの実践方法」です。

もし介護に行き詰まりを感じているなら、まずは「見る」「話す」「触れる」の3つから意識してみてはいかがでしょうか。

【引用・参考資料リスト】

関連タグの新着記事

みさとノイエ

もっと見る

介護の常識が変わる「ユマニチュード」とは?フランス発祥“人間らしさ”を支えるケアの哲学

  • みさとノイエ

2025年11月3日

なぜ、あの店員さんからだと買ってしまうのか?「情熱プレミアム」が最高の介護ケアを生み出す理由

  • リハビリ
  • みさとヴィラ
  • みさとノイエ
  • 働き方
  • 看護
  • 介護
  • 事務局
  • カルチャー

MCライブラリー

もっと見る

意思伝達装置/OriHime eye+Switch

視線やわずかな動きで思いを言葉に変える、社会参加を実現する革新的な意思伝達装置。視線入力やスイッチ入力で文字を選び、合成音声でスピーチができるため、ALSなどの神経難病の方々も自由に意思を伝えられます。家族や介護者とのコミュニケーションはもちろん、テレビ操作やインターネット利用など、日常生活の多くの場面で活用可能。OriHemeにはカメラやマイク、スピーカーが搭載されており、周囲を見渡したり、会話にリアクションするなどその場にいるようなコミュニケーションを実現し、生活の質を大きく向上させる可能性を秘めています。

持続吸引器/排唾管

口腔内の唾液を24時間持続的に吸引できる専用機器。唾液による肺炎リスクを下げ、夜間の介助負担も大幅に軽減します。常に口腔内に当たる吸引口の先端部分には既成のプラスチックパーツがついていますが、利用者さまによってはその硬さや大きさに違和感がある場合もあります。そこでMCでは、形や素材を手作りで工夫し、一人ひとりの好みに合わせた快適な使用感の実現を目指しています。

関連ページ

お知らせ

MC大学

MCの全社員を対象とした学びの場。次世代の医療介護業界のプロフェッショナル人材を早期に育成することを目的としています。また、能力や経験の豊富なスタッフが社内講師役を務めることで、彼らも教えることを通じて学び、知見を広げています。私たちMCは成長し続ける企業であるために、社員一人ひとりが興味のあることを積極的に学び続けられる環境を大切にしています。

関連ページ

リフト(スリングシート)

リフト(スリングシート)

自力で移動できない利用者さまを介助リフトで運ぶ際に使用するシート状の補助具。頭から全身を包み込むハイバック型、頭を支える必要のない人に適したローバック型、介助者が取り扱いやすい脚分離型などのさまざまな種類があります。身体状態や体重等を考慮して、その方に合ったスリングシートを選択します。

採用について

株式会社MCでは新卒採用、キャリア採用、アルバイト・パート採用を行っております。
募集職種など詳しくは採用情報をご確認ください。

お問い合わせ窓口

採用について、施設への入居についてなど、株式会社MCへのお問い合わせは下記より承っております。

電話:048-999-5858

電話受付時間:9:00〜17:00(月曜日~金曜日)
FAX:048-999-5827