介護の常識が変わる「ユマニチュード」とは?フランス発祥“人間らしさ”を支えるケアの哲学

介護の現場で、「どう接したら良いか分からない」「拒否されてしまう」と悩んだことはありませんか?
ケアが「作業」になった瞬間、ケアを受ける側も、する側もつらくなってしまいます。
そうした課題を解決し、「あなたを大切に思っています」というメッセージを伝えるための具体的な技術と哲学を体系化したものが、フランス発祥のケア技法『ユマニチュード』です。
この記事では、ユマニチュードの基本的な考え方と、なぜ今、日本の医療や介護の現場でこれほど注目されているのかを、専門機関の情報を交えて解説します。
ユマニチュード(Humanitude)とは、「人間らしさを取り戻す」という意味を込めたフランス語の造語です。
日本ユマニチュード学会の公式サイトによると、この技法は1979年にフランスの体育学専門家であるイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏によって考案されました [1]。
その目的は、認知症の方や高齢者をはじめ、ケアを必要とするすべての人に対し、「ケアを受ける“その人らしさ”と尊厳を最期まで尊重すること」にあります。
ユマニチュードは単なる介助技術ではなく、「ケアを行う人の心構えや哲学」でもあるのです [2]。
ユマニチュードの最大の特徴は、「あなたを大切にしている」というメッセージを、相手が理解しやすい感覚(視覚・聴覚・触覚)を用いて伝える点にあります。
この技法は、以下の「4つの柱」と呼ばれる基本動作で構成されています [3]。
人は、自分の存在を認めてもらえないと不安になります。ユマニチュードでは、相手の正面に立ち、同じ目線の高さで、近い距離から見つめることを重視します。
これは「私はあなたを見ています」「あなたの存在を認めています」という最も強いメッセージとなります。ベッドに寝ている方なら、自分がしゃがんで目線を合わせます。
ケアの間、穏やかな声で「おはようございます」「これからお背中を拭きますね」と実況中継するように話しかけ続けます。たとえ相手から返事がなくても、声かけを止めません。
これは「私はあなたとここにいます」「何も怖いことはありません」という安心感を伝える聴覚へのアプローチです。
ケアで身体に触れる際、指先で「つかむ」動作は、相手に恐怖感や拘束感を与えてしまいます。
そうではなく、手のひら全体で、広い面積で、ゆっくりと優しく触れます。背中や腕を支えるように触れることで、「あなたの身体を大切に扱っています」という温もりと敬意を伝えます。
人間は本来、二本足で立つ存在です。「危ないから」と寝かせきりにするのではなく、できる限り自分の足で「立つ」時間を確保することを目指します。
たとえ短い時間でも、立つことは人間の尊厳を保ち、身体機能や意識を活性化させる重要な柱です [4]。
これら4つの柱を組み合わせて実践することで、ケアを受ける側の「自分は尊重されている」という実感が深まります。
その結果、ケアへの拒否感や攻撃的な反応が減少し、介護者との間に深い信頼関係(絆)が築かれると報告されています [5]。
実際にどのように実践されているかを知りたい方は、ユマニチュードの創始者であるイヴ・ジネスト氏の実演動画などが参考になります [6]。
現在、ユマニチュードは日本でも2010年代から普及が進み、多くの介護施設や医療機関、さらには在宅介護の現場でも導入されています [7]。
ユマニチュードは、単なる介助テクニック集ではありません。
それは、ケアをする側とされる側が、人間としての尊厳を互いに認め合い、心を通わせるための「哲学」であり「優しさの実践方法」です。
もし介護に行き詰まりを感じているなら、まずは「見る」「話す」「触れる」の3つから意識してみてはいかがでしょうか。
【引用・参考資料リスト】
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