2025年10月25日

『呆然自失』の先に見た光:介護現場の「専門性の壁」を壊し、最強のチームを築く方法

「えっ、私に聞くんですか…?」

ある日、事務局で働く私は職場で文字通り「呆然自失」としていました。

介護の実務経験がない私に、現場一筋のベテラン職員さんが、実績入力という「専門外」の相談をしてこられたのです。

介護の「素人」が「玄人」から教えを乞われる。

この出来事は単なる珍事ではありませんでした。

それは、私たちの職場、いや、介護業界全体が抱える「専門性の壁」という、見えないけれど確かに存在する「溝」が、目の前に現れた瞬間だったのです。

この記事は、あの「呆然自失」の体験から出発し、介護現場に潜む様々な「ギャップ(=価値観や焦点の違い)」を解き明かし、どうすればそれを乗り越え「最強のチーム」を築けるのか、その具体的な設計図を検討したものです。

ギャップの地図:あなたの現場にも潜む「2つの壁」

あの「呆然自失」の瞬間をきっかけに、私たちの職場では多くの本音が語られるようになりました。そして見えてきたのは、決して優劣ではない、異なる専門性ゆえに生じる「3つの壁」でした。

1.1 知識の壁:「2時間ルール」という視点の違い

「医療事務から転職してきた時、現場経験者と『2時間ルール』についての認識が異なっていて、視点の違いに気づいた」

これは、あるスタッフの興味深い発見でした。

訪問介護の「2時間ルール」(※サービス間隔を2時間以上空ける規定)は、報酬算定の根幹であり、事業所のコンプライアンスに関わる超重要ルールです。

事務職の専門性は「制度を正確に守り、経営を支える」こと。

現場職の専門性は「利用者のその瞬間のケアを実践する」こと。

どちらも100%正しく、不可欠な視点です。しかし、焦点が異なるがゆえに、時にギャップが生まれます。この「視点の違い」をお互いが認識し、すり合わせることこそ、経営とケアの質を両立させる鍵となります。

1.2 文化の壁:「恐れ多い」という感情

「マネジメント経験もないのに、管理職から相談されて『恐れ多い』と感じてしまう…」

冒頭の私の体験もこれに近いものです。

知識やスキルでは自分が上でも、相手がベテランだったり役職が上だったりすると、意見や質問を躊躇してしまう。この「恐れ多い」という感情こそが、組織の成長を止める見えない壁です。

本来、チームは「役職」で動くのではなく、その課題に最も詳しい人が権威を持つ「専門性」で動くべきです。あの「呆然自失」の瞬間、ベテランさんがこの壁を越えて私に助けを求めたこと。それこそが、実は「最強のチーム」への第一歩だったのです。

なぜ「壁」が生まれるのか?:業界の圧力とチームの現実

では、なぜこれらの壁は、多くの現場で温存されてしまうのでしょうか?

2.1 業界の現実:なぜ「人間関係」が最重要なのか

介護業界は、深刻な人材不足に直面しています。(公財)介護労働安定センターの「令和5年度 介護労働実態調査」によれば、64.7%もの事業所が「従業員が不足している」と感じています。

この状況下で、職員の離職率が低下している主な理由は何か?

同調査で「残業削減、有給休暇の取得促進、シフトの見直し等を進めたため」(45.6%)や「賃金水準が向上したため」(36.3%)を抑え、ダントツの1位だったのが、

「職場の人間関係がよくなったため」(63.6%)

でした。

このデータが示す事実は一つ。

もはや、良好なチーム文化(人間関係)は、単なる「努力目標」ではなく、事業所が生き残るための「最重要経営戦略」なのです。

専門性の壁から生じる摩擦や誤解は、この「人間関係」を悪化させる最大の要因です。だからこそ、私たちはこの「壁」に積極的に向き合う必要があります。

2.2 組織の要:「連携ハブ」としての専門職

この「壁」の境界線に立ち、連携の「ハブ」となる重要な役割があります。

例えば「サービス提供責任者(サ責)」です。

サ責は、介護支援専門員(ケアマネジャー)が作成したケアプランに基づき、より具体的な「訪問介護計画書」を作成します。そして、ヘルパーの指導・育成、多職種との連携を一手に担う、まさにチームの要です。

私たちの職場では、シフト調整は介護課長や主任が担うなど、業務分担が進んでいますが、それでもサ責が「連携のハブ」であることに変わりはありません。

サ責が「ケアの品質管理」や「人材育成」に集中できている時、そのチームはうまく機能しています。彼ら(彼女ら)が円滑に動けているかどうかが、チームの健全性を測るバロメーターなのです。

ギャップから架け橋へ:最強のチームを磨き上げる「4つの設計図」

「壁」を「架け橋」に変える。

精神論だけではチームは変わりません。必要なのは、具体的な「設計図」です。ここでは、私たちが実践してきたこと、そして、さらに強化すべきことを共有します。

3.1 基礎層:心理的安全性の醸成

最強のチームの土台、それは「何を言っても大丈夫」という心理的安全性です。

「恐れ多い」という壁を壊すのは、リーダーの役目です。

  • 私たちが目指す姿:
    • リーダー自身が「私、これ詳しくないから教えて」と、自分の弱さや知識の限界を先に開示する。
    • 「2時間ルール、不安だからもう一度確認しよう」と、ベテラン・新人を問わず「知らないこと」を確認する場を「定例化」する。

3.2 構造層:意図的なコミュニケーションの設計

コミュニケーションを「偶然」や「個人の頑張り」に任せてはいけません。

私たちはすでにGoogle Workspace(Google Chatなど)を導入し、情報共有のインフラは整っています。

  • 私たちが目指す次のステップ:
    • ツールで「情報」を共有するだけでなく、適時開催しているカンファレンスで、その情報の「意味」や「背景」を議論する。
    • 介護記録の情報から、「だから、次の巡回では〇〇を重点的に見てほしい」という「行動」にまで繋げる。

3.3 教育層:体系的な「越境学習」の実践

「知識の壁」を壊すには、お互いの仕事を知る「越境」が不可欠です。

これは、私たちがまさに実践し、効果を実感していることです。

  • 私たちが実践してきたこと:
    • 事務職員がカンファレンスに参加し、利用者様の理解と現場職員との相互理解を深める取り組みを継続してきました。
    • この「土壌」があったからこそ、冒頭の「呆然自失」の瞬間に、ベテラン職員は「事務の〇〇さんなら実績のことを知っているはずだ」と、壁を越えて助けを求めることができたのです。

3.4 リーダーシップ層:「文化の設計者」としての役割

リーダーの仕事は、最高の問題解決者になることではありません。

チームが自ら問題を解決できる「文化」を設計することです。

  • 私たちが目指す姿:
    • 「人の思いを実現できる会社」という当社の「理念」を、しつこいほど繰り返し語る。
    • 個人の成果だけでなく、「他職種にうまく情報を繋いだ」という協働の姿勢を、全員の前で明確に評価し、賞賛する。

チームの力は、個々の「差異」の総和である

もう一度、あの「呆然自失」の瞬間に立ち返ります。

あの瞬間は、誰かの知識不足を示すものではありませんでした。

それは、ベテランさんの「助けを求める謙虚さ」と、私の「専門外でも応えようとする意志」が交差した、チームのポテンシャルが発火した「閃光」だったのです。

そして、その「閃光」は偶然起きたのではありません。

私たちがこれまで地道に実践してきた、事務職員のカンファレンス参加のような「相互理解(越境)」の取り組みがあったからこそ、生まれた必然的な化学反応でした。

介護組織の本当の強さは、個々の専門知識の「足し算」ではありません。

それは、専門家と専門家を繋ぐ「関係性の質」による「掛け算」で決まります。

「うちの事業所は、他とは『違う』」

そう感じてもらえる究極の価値とは、この「壁」を恐れず、互いの違いを尊重し、協働しようとする、チームのひたむきな姿そのもの。

あの「呆然自失」を、私たちのチームをさらに磨き上げる「招待状」として、これからも大切にしていきます。

あなたの現場では、どんな「専門性の壁」を発見しましたか?

ぜひ、コメントであなたの体験やアイデアを教えてください!

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筋肉の「ひずみ」や「ゆがみ」で作動するピエゾセンサーと、指先の僅かな動きで作動するエアバッグ(ニューマティック)センサーの2種類を選択できるスイッチ。いずれも感度調整が可能で、僅かな力でも操作できるため、幅広い方にご使用いただけます。MCでは更にチューブを利用したカムスイッチを作成し、接続して使用しています。

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押した時がスイッチオン・離すとオフとなる、指で押して使うタイプの軽量でシンプルなスイッチ。握力の大きさに応じて適切なスイッチを選ぶことができます。プラスチックケースの中に内蔵されたマイクロスイッチの場所を変えることで、感度を細かく調整することが可能なため、利用者さまの状態に合わせて工夫してセッティングを行っています。

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