『呆然自失』の先に見た光:介護現場の「専門性の壁」を壊し、最強のチームを築く方法

「えっ、私に聞くんですか…?」
ある日、事務局で働く私は職場で文字通り「呆然自失」としていました。
介護の実務経験がない私に、現場一筋のベテラン職員さんが、実績入力という「専門外」の相談をしてこられたのです。
介護の「素人」が「玄人」から教えを乞われる。
この出来事は単なる珍事ではありませんでした。
それは、私たちの職場、いや、介護業界全体が抱える「専門性の壁」という、見えないけれど確かに存在する「溝」が、目の前に現れた瞬間だったのです。
この記事は、あの「呆然自失」の体験から出発し、介護現場に潜む様々な「ギャップ(=価値観や焦点の違い)」を解き明かし、どうすればそれを乗り越え「最強のチーム」を築けるのか、その具体的な設計図を検討したものです。
目次
あの「呆然自失」の瞬間をきっかけに、私たちの職場では多くの本音が語られるようになりました。そして見えてきたのは、決して優劣ではない、異なる専門性ゆえに生じる「3つの壁」でした。
「医療事務から転職してきた時、現場経験者と『2時間ルール』についての認識が異なっていて、視点の違いに気づいた」
これは、あるスタッフの興味深い発見でした。
訪問介護の「2時間ルール」(※サービス間隔を2時間以上空ける規定)は、報酬算定の根幹であり、事業所のコンプライアンスに関わる超重要ルールです。
事務職の専門性は「制度を正確に守り、経営を支える」こと。
現場職の専門性は「利用者のその瞬間のケアを実践する」こと。
どちらも100%正しく、不可欠な視点です。しかし、焦点が異なるがゆえに、時にギャップが生まれます。この「視点の違い」をお互いが認識し、すり合わせることこそ、経営とケアの質を両立させる鍵となります。
「マネジメント経験もないのに、管理職から相談されて『恐れ多い』と感じてしまう…」
冒頭の私の体験もこれに近いものです。
知識やスキルでは自分が上でも、相手がベテランだったり役職が上だったりすると、意見や質問を躊躇してしまう。この「恐れ多い」という感情こそが、組織の成長を止める見えない壁です。
本来、チームは「役職」で動くのではなく、その課題に最も詳しい人が権威を持つ「専門性」で動くべきです。あの「呆然自失」の瞬間、ベテランさんがこの壁を越えて私に助けを求めたこと。それこそが、実は「最強のチーム」への第一歩だったのです。
では、なぜこれらの壁は、多くの現場で温存されてしまうのでしょうか?
介護業界は、深刻な人材不足に直面しています。(公財)介護労働安定センターの「令和5年度 介護労働実態調査」によれば、64.7%もの事業所が「従業員が不足している」と感じています。
この状況下で、職員の離職率が低下している主な理由は何か?
同調査で「残業削減、有給休暇の取得促進、シフトの見直し等を進めたため」(45.6%)や「賃金水準が向上したため」(36.3%)を抑え、ダントツの1位だったのが、
「職場の人間関係がよくなったため」(63.6%)
でした。
このデータが示す事実は一つ。
もはや、良好なチーム文化(人間関係)は、単なる「努力目標」ではなく、事業所が生き残るための「最重要経営戦略」なのです。
専門性の壁から生じる摩擦や誤解は、この「人間関係」を悪化させる最大の要因です。だからこそ、私たちはこの「壁」に積極的に向き合う必要があります。
この「壁」の境界線に立ち、連携の「ハブ」となる重要な役割があります。
例えば「サービス提供責任者(サ責)」です。
サ責は、介護支援専門員(ケアマネジャー)が作成したケアプランに基づき、より具体的な「訪問介護計画書」を作成します。そして、ヘルパーの指導・育成、多職種との連携を一手に担う、まさにチームの要です。
私たちの職場では、シフト調整は介護課長や主任が担うなど、業務分担が進んでいますが、それでもサ責が「連携のハブ」であることに変わりはありません。
サ責が「ケアの品質管理」や「人材育成」に集中できている時、そのチームはうまく機能しています。彼ら(彼女ら)が円滑に動けているかどうかが、チームの健全性を測るバロメーターなのです。
「壁」を「架け橋」に変える。
精神論だけではチームは変わりません。必要なのは、具体的な「設計図」です。ここでは、私たちが実践してきたこと、そして、さらに強化すべきことを共有します。
最強のチームの土台、それは「何を言っても大丈夫」という心理的安全性です。
「恐れ多い」という壁を壊すのは、リーダーの役目です。
コミュニケーションを「偶然」や「個人の頑張り」に任せてはいけません。
私たちはすでにGoogle Workspace(Google Chatなど)を導入し、情報共有のインフラは整っています。
「知識の壁」を壊すには、お互いの仕事を知る「越境」が不可欠です。
これは、私たちがまさに実践し、効果を実感していることです。
リーダーの仕事は、最高の問題解決者になることではありません。
チームが自ら問題を解決できる「文化」を設計することです。
もう一度、あの「呆然自失」の瞬間に立ち返ります。
あの瞬間は、誰かの知識不足を示すものではありませんでした。
それは、ベテランさんの「助けを求める謙虚さ」と、私の「専門外でも応えようとする意志」が交差した、チームのポテンシャルが発火した「閃光」だったのです。
そして、その「閃光」は偶然起きたのではありません。
私たちがこれまで地道に実践してきた、事務職員のカンファレンス参加のような「相互理解(越境)」の取り組みがあったからこそ、生まれた必然的な化学反応でした。
介護組織の本当の強さは、個々の専門知識の「足し算」ではありません。
それは、専門家と専門家を繋ぐ「関係性の質」による「掛け算」で決まります。
「うちの事業所は、他とは『違う』」
そう感じてもらえる究極の価値とは、この「壁」を恐れず、互いの違いを尊重し、協働しようとする、チームのひたむきな姿そのもの。
あの「呆然自失」を、私たちのチームをさらに磨き上げる「招待状」として、これからも大切にしていきます。
あなたの現場では、どんな「専門性の壁」を発見しましたか?
ぜひ、コメントであなたの体験やアイデアを教えてください!
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