2025年11月11日

家族の意見がバラバラで板挟み… そんな介護現場の「諦め」を「希望」に変える、家族療法型カンファレンス入門

「ご家族の意見がバラバラで、いったい誰の言うことを聞けば…」

「良かれと思って提案しても、『どうせ無理でしょう』とご家族が最初から諦めている…」

介護・医療の現場で、ご本人、ご家族、そして私たちスタッフの思いがすれ違い、板挟みになって悩んだ経験はありませんか?

特に神経難病や重度介護の現場では、ご本人の意思伝達が難しくなったり、ご家族が長期の介護で疲弊してしまったりと、課題が複雑に絡み合います。

「もう打つ手がない…」と全員が諦めかけたその時、「個人の問題」から「家族とチーム全体の問題」へと視点を変えることで、突破口が開けるかもしれません。

それが、この記事で紹介する「家族療法型カンファレンス」です。

これは、単なる「報告会」ではありません。ご本人、ご家族、多職種スタッフが全員でチームとなり、「諦めていた願い」を実現するための作戦会議です。

この記事では、実際の成功事例をもとに、現場でぶつかる「壁」の乗り越え方と、明日から使える具体的なコツをお伝えします!

そもそも「家族療法型カンファレンス」とは?

 「個人」ではなく「家族システム(チーム)」で見る

私たちはつい、「問題=ご本人」と捉えがちです。

しかし、家族療法では「家族全体を一つのシステム(=運命共同体チーム)」として捉えます。

チームだから、誰か一人が不満を抱えれば、他のメンバーの動きもぎこちなくなります。逆に、誰か一人が笑顔になれば、チーム全体の雰囲気も良くなります。

このカンファレンスは、「本人の課題」だけを切り取るのではなく、「チーム全体の関わり方」にアプローチするのです。

 「犯人探し」から「円環的」な理解へ

「あの人が〇〇しないから、問題が起きる」という「犯人探し」(=直線的な原因)は、対立を生むだけです。

家族療法では、「円環的原因(えんかんてきげんいん)」で考えます。

これは、問題が「卵が先か、鶏が先か」のように、お互いの行動や感情が影響し合って、悪いループを生み出している状態を指します。

例えば、A様の事例では、こんなループが起きていました。

  • A様が(どうせ伝わらないと)希望を諦める
  • → 奥様が(夫の気持ちが分からず)介護負担と孤独を感じる
  • → 奥様の笑顔が消える
  • → A様が(妻を苦しめていると)さらに希望を口にしなくなる…

このループに気づけば、「誰が悪い」ではなく、「このループを断ち切るために、私たちはどこから手助けできるだろう?」と、建設的な視点に変えることができます。

 【成功事例】「諦め」が「希望」に変わったALS・A様のケース

ここで、実際の事例を詳しくご紹介します。

【事例:ALS(筋萎縮性側索硬化症)のA様と、介護する奥様】

  • 当初の課題:
    A様は人工呼吸器を使用。病状進行で意思伝達が難しくなり、自分の希望を伝えることを諦めかけていました。
    毎日施設に通う奥様も、介護の重圧と孤独感から笑顔を失っていました。スタッフも、二人の間の重い空気をどうすれば良いか悩んでいました(まさに「板挟み」状態)。
  • 視点の転換(カンファレンスの実施):
    看護師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、介護士、ケアマネジャーらが集結。
    私たちは、この課題を「A様個人の問題」ではなく、「A様・奥様・ケアチーム全体の相互作用(関係性)の問題」として捉え直しました。
  • カンファレンスで発見された「本音」:
    安全な場で対話を重ねるうち、それぞれの「本当の願い」が明らかになりました。
  • A様の本音: 「(自分のせいで苦労している)妻の笑顔を取り戻したい
  • 奥様の本音: 「夫の気持ちが分からない。毎日ここで息が詰まる。息抜きができず、孤独だ
  • 多職種チームのアクション:
    「本音」という共通目標が見えた瞬間、チームが動き出しました。
  1. 意思伝達の再構築(OT・PT): OTやPTがA様のわずかな残存機能(指先の動きなど)を見逃さず、特注の簡易スイッチをカスタマイズ開発!
  2. QOLの向上(全職種): A様が以前好きだった「散歩」をリハビリの一環として再開。奥様には意識的に「息抜き」の時間(例:スタッフがA様と散歩中に、奥様は一人で買い物や喫茶店へ)を提案しました。
  • 結果:「ここに来て良かった」
    スイッチで「ありがとう」「散歩に行きたい」と伝えられるようになったA様は、主体性を取り戻しました。
    奥様も、夫の意思が分かり、自分の時間を持てたことで、以前の明るい笑顔が戻りました。
    多職種が協力し、ご本人とご家族の「諦めていたこと」を実現できた瞬間、奥様から「ここに来て良かった」という最高の言葉をいただきました。

なぜ難しい? 現場でぶつかる「2つの壁」

A様の事例は理想的ですが、現実には多くの困難があります。特に現場でぶつかる「2つの壁」と、その対策を見ていきましょう。

 家族の「どうせ無理」という無言の諦め

重度の神経難病など、医療依存度が高い生活では、ご家族もご本人も無意識に「願い」を諦めてしまうことがあります。

「人工呼吸器をつけているから、もう自宅のダイニングの椅子に座れるわけがない」

「施設に入ったんだから、散歩なんて無理に決まっている」

ご家族がこのように「決めつけ」、ご本人もそれを口にしない… この家族間の「無言の諦め」に気づき、カンファレンスで言葉にならない声を知る環境づくりが不可欠です。

  • 当社での対策
  • SEQOL(シーコル)の活用: 「SEQOL」とは、個人の生活の質(QOL)を評価するためのユニークな評価法です。「ご自身の生活の質に最も重要だと思う5つの項目はなんですか?」といった質問を通じ、ご本人様が重要視していることや満足度を知る手助けになります。
  • 「何気ない一言」の共有: スタッフがケアに入る中で、ご本人やご家族がポロッと漏らした「昔はよく〇〇したなぁ…」といった何気ない一言こそがヒントです。それを「単なる雑談」で終わらせず、必ず多職種チームで共有します。

多職種間の「視点のズレ」と情報共有の難しさ

看護、リハビリ(PT/OT/ST)、介護、ケアマネ… 多様な専門職が集まるからこそ、視点や知識に差が生まれます。

特にA様の事例のような意思伝達装置や福祉用具(シーティングなど)の導入では、

  • 専門家による緻密な調整・フィッティング
  • それを他の多職種やご家族が「理解」し、「継続」して正しく使うこと
    の間に大きなギャップが生まれがちです。

「リハビリの先生しか使えないスイッチ」では、A様の願いは叶いません。

  • 対策:
  • 「技術」を「みんなの言葉」に翻訳する: 専門職は、専門用語を使わずに「なぜこの調整が必要か」「これを使うとご本人がどう嬉しいか」をチーム全員に伝える努力が必要です。
  • 「継続」できる仕組みづくり: 使い方を簡単なマニュアル(写真付き1枚ペラなど)にしたり、介護職やご家族向けに短い勉強会を開いたりして、「あの人しか分からない」状態を防ぐことが重要です。

会議を「作業」から「みんなの希望」へ

家族療法型カンファレンスは、「板挟み」の悩みからスタッフを救い出してくれます。

それは、「誰が正しいか」を決める場ではなく、「全員でどう幸せになるか」を探す場だからです。

ご本人やご家族の「どうせ無理」という諦め。多職種間の「視点のズレ」。これらの壁は、私たちが「個人の問題」ではなく「チーム(システム)の問題」として捉え直し、「円環的な悪循環」に気づくことで、必ず乗り越えられます。

A様の事例のように、諦めていた「ありがとう」が伝わった瞬間、諦めていた「散歩」が実現した瞬間、カンファレンスは単なる「作業」から「希望を生み出す時間」に変わります。

あなたの現場では今、どんな「諦め」や「すれ違い」がありますか? もしよろしければ、この記事のヒントをどう活かせそうか、ぜひコメントで教えてください。

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